事業再生

再生ステージから脱却し、
業界を支える企業としての体制をつくるお客さま。

Introduction

カタログやチラシなどの商業印刷を中心に、総合印刷事業を展開している日本ウエブ印刷株式会社。時代の荒波が印刷業界に襲いかかる中、民事再生という苦難から力強く立ち上がってきた同社に残る課題とは。商工中金大阪支店の奈良輪凌一が日本ウエブ印刷の物語を追う。

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商工中金 大阪支店

奈良輪 凌一

2014年入社。豊橋支店に4年間勤務した後、大阪支店に異動。営業窓口として約100社の中小企業を担当し、事業承継なども含めた経営課題の解決や資金需要に対応している。

民事再生手続きの終結後にも、
残っていた債務。

日本ウエブ印刷さんは民事再生を経ている企業ということですが、これまでの経緯を教えてください。

日本ウエブ印刷さまは先代社長の時代に拡大路線を取り、東京や名古屋などにも拠点を構えていたのですが、インターネットの普及に伴う印刷物の減少やリーマンショック、東日本大震災などの影響を受けて経営状態が悪化し、2013年、大阪地方裁判所に民事再生の申し立てをされました。そしてその後は、経費の削減や事業所の見直しといったリストラ策を実施。先代のご子息である新社長の指揮のもと、再生計画に基づいた経営改善に取り組まれ、2017年には民事再生手続きの終結に至っています。商工中金もこの当時、債権(貸付金)の一部放棄をした金融機関の一つでした。

奈良輪さんはいつからこのお客さまを担当しているのですか?

2019年4月からです。それまでは企業の再生支援を専門に行うセクションが同社を担当していましたが、足元の業績が順調に回復しているということで専門セクションの手を離れ、支店の営業窓口である私が受け持つことになったのです。
とはいえ、民事再生を経験している会社なので、活力が損なわれている面もあるのではないか、と想像していたのですが、ご挨拶に出向いてみると、お世辞抜きで、心から素晴らしいと思える会社でした。工場は非常に立派で、内部の整理も行き届いていましたし、従業員の皆さんも礼儀正しく対応してくださいました。そして何より、社長が大変真面目な方で。柔らかな物腰でありながら、熱意を持って前向きに事業にまい進している方だとわかりました。
しかし一方、同社には、民事再生を終えた後も多額の債務が残っていました。この状態では金融機関からの新たな資金調達が思うようにできません。それはこの先、前向きな事業展開をしていくうえでの足かせにもなってしまうだろう、と支店内で話し合い、今ある債務(借入金)のすべてを借り換えるリファイナンス(金融取引の正常化)の提案を行うことにしたのです。

生産能力が高いだけでなく、
働く人の結束力が非常に強い会社だった。

奈良輪さんが打診したリファイナンスの構想を、社長はどのように受け止められたのでしょう?

思いがけない提案に驚かれた様子でした。社長は非常に実直な方なので、先代の頃の話とはいえ、過去に債権カットをしてもらい、金融機関に不義理をしてしまったことに後ろめたさを感じておられ、「そんなことをお願いしてもいいのだろうか」というような発言もありました。
ですが、過去は過去として、すでに清算されたこと。企業活動はこれからも続きます。ことに同社は、大阪では数少ない大型のオフセット輪転機(※)を6台も保有。高い生産能力を強みとして、大量・短納期のニーズに対応されている企業です。日本を代表する大手印刷会社とも強固な取引関係を築いています。この先、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もある中で、金融取引が正常化されず、会社の動きが制限されてしまうのは残念なことだと話し合いました。そして社長ご自身も、過去の拡大路線とは違う形での事業プランをお持ちだったため、この案件を正式に進めるべく動き出しました。

※ロール状の用紙をセットし高速で紙を巻き取りインキを転写する、大量印刷が可能な印刷機

どんな形で案件を進めていったのですか?

リファイナンスの構想を書面にまとめ、社長と財務責任者、同社のコンサルタントの方に正式な提案を行いました。ただし、同社の債務は金額が大きく、商工中金だけではリファイナンスが難しかったため、お客さまが信頼している北おおさか信用金庫さんにも協力を仰ぐことになりました。
北おおさか信用金庫さんと商工中金の審査部門にリファイナンスの必要性を理解してもらうには、日本ウエブ印刷さまがこれからも業界で生き残っていく強い企業であることを示さなければなりません。そこで改めて工場と倉庫を回り、同社の事業内容や強み・弱みを詳細に調査しました。そうした中で新たにわかったのは、社員の定着率の高さでした。従業員の皆さんは民事再生のあったつらい時期でもこの会社を離れずに、新社長を信じて付いてきた方たちばかりで、非常にまとまりのある組織だということが確認できたのです。

難航必至の銀行間交渉。
社長と信金支店長の熱意が組織を動かした。

そして調査結果をレポートにまとめて審査に回し、北おおさか信用金庫さんにも説明に行ったのですね。

はい。今回のリファイナンスは適用する金利水準の観点から見ても、北おおさか信用金庫さんにはメリットがない。むしろ損をする話ですから、交渉が難航するのは覚悟のうえで、リファイナンスの意義や商工中金としての考えをご説明に伺いました。また、本来ならば銀行間で交渉すべき事柄ではありますが、社長も一緒に矢面に立ってくださって、リファイナンスが実現すれば仕入れ先や販売先にも安心してもらえるだろうから「ぜひともお願いしたい」という旨の想いを真摯に語ってくれました。
すると、北おおさか信用金庫の支店長が、社長の熱意にいたく共感されて、支店内の意見をまとめ、本部の説得にあたってくれたのです。日本ウエブ印刷さまと、北おおさか信用金庫さんと、われわれ商工中金は、話し合いを重ねるごとに連帯感を深めていって、北おおさか信用金庫さんから「本部の決済が取れた」との一報が入ったときは、関係者全員、歓喜に沸きました。

今回の案件が成立に至ったカギは社長と支店長の熱意だったようですが、奈良輪さんのモチベーションはどこにあったのですか?

商工中金に入ってから6年余り営業活動をしてきた中で、これほどまでに自分を必要としてくれるお客さまはいませんでした。ですから、なんとしてでもリファイナンスを形にして差し上げたいと思ったのです。そして迎えた契約日。目に涙を浮かべておられる社長を見て……私の心も震えました。あんなにも胸を打たれた瞬間は、後にも先にもないですね。

印刷のみから、
製本までも担える一貫体制の構築へ。

北おおさか信用金庫さんと商工中金が実行した協調融資(シンジケートローン)の内容を教えてください。

融資額は10億円。そのうちの大半は民事再生後に残っていた債務の借り換え資金ですが、日本ウエブ印刷さまは事業の対価を手形で受け取るケースが多く、手形の期日が来るまでの間をつなぐお金が必要になりますので、運転資金も対応させていただきました。2019年11月の融資実行を経て、経理責任者の方からは、資金繰りの負担がだいぶ減ったと喜んでいただいています。また、事業面では、新規の設備を導入し、印刷後の製本事業にも徐々に乗り出しておられます。これは以前から社長が構想していたことで、この先も段階的に事業の幅を広げていき、デザイン調整から印刷、製本、保管、発送までの一貫体制を築き上げたい、とのご意向です。

日本ウエブ印刷さんの今後をどう見ていますか?

紙媒体からデジタル媒体への転換が進む現在、生産能力が低く大量の受注をこなすことができない同業他社は、採算が取れずに事業を撤退しています。そのような中、業界の残存者である日本ウエブ印刷さまは、他社が手放した受注を取り込むことで業績を伸ばしています。これは単に自社の利益になるというだけでなく、発注の受け手を求めている取引先にも寄与することです。
印刷業界には今後、大きな再編の波が押し寄せるかもしれませんが、日本ウエブ印刷さまは、大阪の、そして日本の印刷業界に必要な存在です。日本の印刷業界を支える企業として同社が長く事業を続け、発展していくことができるよう、私自身もさまざまな経営支援に力を注いでいきたいと思います。
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