プロジェクト

宇宙ビジネスに誰もが参入可能となるインフラを
つくろうとしているベンチャー企業。

INTRODUCTION
イントロダクション

超超小型人工衛星「Cube Sat」を供給する東京大学発のベンチャー、株式会社アークエッジ・スペース(旧社名:株式会社スペースエッジラボ)。宇宙産業振興の機運が高まる中、同社に寄せられる期待も大きいが、創立間もない頃にはベンチャーゆえの難局が…。福井県をベースに活動する中本浩喜がアークエッジ・スペースの歩みを語る。

公益財団法人ふくい産業支援センター出向中

中本 浩喜

2015年入社。商工中金福井支店に5年間勤務した後、ふくい産業支援センターへ出向。産学官金連携を推進する企画立案、開発技術やアイデアの事業化支援などを担っている。

超超小型人工衛星の製造が、福井県のチームに託されていた。

—— アークエッジ・スペースさんはどのような事業を行う会社なのですか?

超超小型人工衛星の企画・開発から打ち上げ・運用まで、さまざまなプレーヤーをつなぐインテグレーターとしての機能を持ち、顧客の衛星利用をトータルでサポートする会社。アークエッジ・スペースさまのビジョンは、これから宇宙事業を始めるような発展途上国や、宇宙で自社の機器を実証したい企業など、誰もが宇宙ビジネスに参入しやすいインフラ(機器+システム)をつくること。そのために超超小型人工衛星を使い、宇宙ビジネスの低コスト化を図ろうとしておられるのです。

—— 人工衛星のサイズはどれくらいなのでしょう?

現在メインで提供している衛星は10×10×30cmや10×20×30cmの大きさのもので、2リットルサイズのペットボトル1~2個くらいの大きさです。たとえば、気象衛星「ひまわり」に代表されるような大型の人工衛星と比べた場合、価格は100分の1以下程度、製作期間も半分ほどで済みます。ただし、大型の衛星と違い1基あたりの機能は小さいため、地球上をカバーするように数基~数十基の人工衛星を打ち上げて、衛星のコンステレーション(複数基を連動し機能させること)を構築。地球上の観測データをどこでも常にリアルタイムで入手できる体制を整えて、データを利用した新サービスの創造を目指しておられます。

—— 中本さんはどのようなきっかけで同社を担当することになったのですか?

私が商工中金の福井支店に所属していた2019年11月、福井県工業技術センターの宇宙担当の方に「支援してほしいベンチャーがある」と紹介されたのがきっかけです。アークエッジ・スペースさまは東京の会社ですが、人工衛星をつくるのは福井県の企業と大学の製造チームだったため、これは地域支援にもつながると思い、福井支店でお手伝いすることにしたのです。

第1号はアフリカのルワンダ向け。グローバルな事業観に感銘を受けた。

—— 宇宙産業に関わることになり、率直にどう思いました?

「待ってました!」という気持ちでしたね(笑)。私は、父が以前宇宙航空関連企業に勤務していた関係で、入社前から宇宙には強い関心を持っていました。また、赴任した福井県が宇宙を軸に新しい産業を興そうとしていることも知っており、自分もいつかなんらかの形でお手伝いしたいと思っていたので、工業技術センターから相談を受けたときは、全力投球で取り組ませていただこう、と考えました。

また、その後にお会いしたアークエッジ・スペースさまの社長にも感銘を受けました。直接お話を伺う前は、国内企業を中心にサービスを売るのかな、と想像していたのですが、第1号案件は、ルワンダ向けのプロジェクトだったのです。途上国には、衛星を利用して通信インフラを築いたり、海賊船を取り締まったりと、ニーズがいろいろあるとのお話で。「途上国の課題を解決しよう」という理念が素晴らしいと思いましたし、グローバルな事業観を持っておられるところもすごいな、と。

—— アークエッジ・スペースさんのようなベンチャー企業には投資会社も注目すると思いますが、商工中金に融資の相談が来たのはなぜでしょう?

アークエッジ・スペースさまのような研究開発型のベンチャーは、一般的にPoCと呼ばれる実証ステージを経て投資会社よりまとまった出資を受けることから、資金を得るまでに時間がかかります。その一方でプロジェクトのほうはどんどん進んでお金がかかり、資金繰りに苦慮されるようになったため、ベンチャー支援に力を入れている商工中金に相談が来たのだと思います。

ほかの金融機関では宇宙産業のようなリスクの高い分野への融資にためらうかもしれませんが、商工中金はお客さまのためにリスクに挑んでいくことが求められていますので、ベンチャー企業が初めて銀行取引をする相手として、商工中金を選んでくださるケースも多いのです。

「金融機関とやりとりするのは初めて」というお客さまに寄り添って。

—— アークエッジ・スペースさんの創立は2018年7月ですから、中本さんが融資に取り組んだのは2期目のことですね。

はい。同社が金融機関から資金調達をするのはこれが初めてでしたので、まずは社長と一緒に、資金が必要になるタイミングや金額を話し合い、認識を共有化。資金繰りの仕組みをご説明したり、同社の総勘定元帳からこちらで計数資料を作成したりしながら、審査に必要な資料をともに作り上げました。

また、それと並行して私自身も宇宙関連の知見を深め、ビジネスの将来性についても自分なりの考えをまとめたうえで支店の決裁を取り、2020年2月から運転資金のご融資を始めました。

—— 創立直後で資金繰りがもっとも難しい時期に寄り添ってきたのですね。

手前みそではありますが、そのようにお客さまが存続できるよう支援をしてきたことで、ようやく最近、アークエッジ・スペースさまにとっては待望の投資話がまとまりまして。商工中金が運転資金を提供していることが、「事業者から出資を得るうえでもプラスに働いた」と伺っています。

—— お客さまとの関係性もかなり深まったのではないですか?

そうですね。社長は普段海外出張も多く、大変お忙しい方なので直接会ってお話しする機会は限られますが、毎日何度も電話やメールでコミュニケーションを取り、金融のさまざまな考え方をお伝えしたり、会計事務所をご紹介したりしてきたことで、信頼関係はかなり深まって、「ぜひ当社の財務アドバイザーに」とまで言っていただけるようになりました。本当に光栄ですね。

衛星の量産とデータサービスの開発を行って、10年以内に上場へ。

—— アークエッジ・スペースさんの今後の事業計画を教えてください。

10年以内に上場することを一つの目標とされています。現在は、衛星を1基1基打ち上げて実証を積み重ねている段階ですが、そこから徐々に衛星の数を増やしていってコンステレーションができるようになると、データサービスも具現化できます。そうすると収益基盤が確立しますので、そのタイミングで上場を目指すというのが現状の計画です。

—— 中本さんは、そんな同社をどういった形でサポートしていく考えですか?

私は2020年4月にふくい産業支援センターに出向してからも、県の宇宙産業を推進するチームでアークエッジ・スペースさまと関わっています。より踏み込んだ経営支援をするとともに、アークエッジ・スペースさまと商工中金福井支店の橋渡しをしている状況です。宇宙ビジネスには多額の資金が必要となりますので、これからも中長期的な観点で資金調達サポートに傾注していくつもりです。

また、商工中金で働く中で身につけた多様な業種の知識を活かし、顧客となる企業のニーズと技術的なシーズを結びつけながら、新サービスのアイデア出しにも取り組むことで、アークエッジ・スペースさまの成長に伴走していきたいと考えています。人工衛星を利用した新サービスの開発は、日本の中小企業が抱える課題の解決にもつながることですので。
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